学生時代にはデザインを勉強し、「物を介して社会と関わり、経済活動をしたい」と考えるようになった。服に興味を持ったのは、「作ったものがどのように人と関わるかを考えたときに、毎日誰もが着る『服』のすごさに思い至ったのです。服は全身に触れるため、無意識に人に影響を与えます。また視覚を通してその人の情報(文脈、嗜好性等のレイヤー)が送受信され、常に影響を与え合っています。映画や建築ほどインパクトはないかもしれませんが、人の気持ちを動かせる仕事だと思いました。」
アパレル業界の中で、ブランド創造を行う、規模の大きな会社を探して候補を絞り込んだ。そのなかで、年次にとらわれず能力に応じた仕事がしたいと考え、社長の年齢が最も若いオンワードを志望。第一志望で、無事に入社した最初の年に配属されたのは、販売部だった。「私たちの代から、1年目は必ず店頭で販売を経験するようになりました。販売を経験しながら、総合職として営業の仕事も経験しました。倉庫に行って荷物を詰めたり在庫を整理したり、仕事は多岐にわたり体力勝負でした。大変でしたが、お客様が商品をお買い上げくださったときの笑顔や、表情の変化を直接見ることができるので、やりがいがありました。」
2年目からは、Eビジネスの仕事をすることになった。オンワードの公式通販サイト『オンワード・クローゼット』内で、各ブランドの運営と販売を担当する部署で、現在の人数は50人ほど。「Calvin Klein」と「JOSEPH HOMME」という二つのブランドを担当している。
「仕事の内容は、大きく二つに分けると、発注と販売業務です。商品が発売される1年~半年前に『来年はこういう商品を出します』という商品会議があり、そこでその商品をどれくらい売っていくかを自分で計画し、発注を行います。商品ができあがったら、商品の写真とセールストークをサイトに掲載するという流れです。」
言葉にするとシンプルだが、商品を見せる順番や写真と説明文次第で売れ行きが変わることもあるので、日々仮説を立てて実行し、検証するというサイクルを繰り返さなければいけない。数字を読み誤ると、売り切れになってしまい商機を逃してしまうが、たくさんの在庫を抱えるほどリスクが増える。非常に頭を使う仕事だ。「オンラインだと、買ってくれたお客様の表情も見えないので、売れた実感などを得るのは難しいです。PDCA(Plan、Do、Check、Act)を繰り返す毎日ですが、2~3年程度の戦略が見えてきたりと、少しずつ広い視野で見えるようになりました。が、日々課題が出てきており、試行錯誤の日々です。」
Eビジネスの担当になったとき、あるブランドはちょうどリブランディングを行っていた。商品の傾向がガラッと変わってしまい、それまでの顧客様が欲しいものとズレが大きくなってしまったのだ。「最初の1年くらいは、ほとんど売れ行きが伸びませんでした。そこで、それまでお買い上げいただいていた方たちを調べてみると、ブランドが想定しているメインターゲットからかい離していた。その方にも欲しいと思ってもらえる商品を選んで押し出し、アイテム構成比を大幅に変更し、ブランド想定のメインターゲットを獲得しにいった。」
もちろん、上司からのアドバイスも有効だった。「オンラインだと、雑貨の売れ行きが良いです。メンズでも女性おお客様が3割弱くらいいるので、バレンタインのキャンペーンなどは内容を考えて商品を展開しています。」Eビジネスは、一人が1~2ブランドを任されている。商品を売りたい相手も市場も見えていて、そのなかでいかに最適化するかという仕事になる。「前年と比べて120~130%くらいの売上げをどうやって維持していくかという仕事をやってきました。でも、まったく違う市場を開拓しないかぎりは、これが200%や300%になるようなことはまずありません。いずれは、新しいブランドや事業を立ち上げて、300%、400%の伸びを出せるようなことがやってみたいです。」広い視野を持って今の仕事の先を見据えながら、より多くの人の心を動かすにはどうすれば良いかを模索している。
所属部署は取材当時